会長あいさつ

 この度、2023年7月8日(土)〜9日(日)にライトキューブ宇都宮にて開催予定の第55回日本動脈硬化学会総会・学術集会をお世話させていただくこととなりました。

 動脈硬化性疾患は我が国においても国民の健康寿命を制約する重要疾患であり続けています。悪性腫瘍を臓器別に分類した場合、卒中と虚血性脳心疾患は死因の第一位と第二位として君臨し続けています。従って、その克服は我が国の健康福祉領域の喫緊の課題です。

 動脈硬化の診断治療分野は長足の進歩を遂げ、治療においては、動脈硬化性疾患予防の標準治療であるスタチンが遠藤章博士等によって発見されてから、今年で丁度50周年の節目の年を迎えます。創薬は加速し、脂質代謝を標的とした低分子化合物、抗体医薬及び核酸医薬の開発も目白押しです。スタチンに劣らない動脈硬化性疾患予防効果を持つ糖尿病や高血圧のための治療薬も登場してまいりました。診断につきましても、リスクマーカーや画像診断技術の開発において瞠目すべき進歩がございます。

 こうした技術面での進歩を社会実装する手段として、日本動脈硬化学会は動脈硬化性疾患予防ガイドラインを昨年改訂いたしました。しかし、診断治療領域での進歩を実地診療に生かすためには、それぞれの地域と医療現場での問題意識の共有と施策が不可欠であることは言を俟ちません。そこで、本学術集会のテーマは「地域医療における動脈硬化」と致しました。

 特別講演には日本の地域医療を牽引してきた自治医科大学の永井良三博士から地域医療における動脈硬化診療の未来予想図をご提示いただきます。特別シンポジウム「スタチン50周年」ではLDL受容体の発見やコレステロール代謝調節機構の解明に顕著な業績のあるUniversity of Texas Southwestern Medical CenterのJoseph Goldstein博士とMichael Brown博士おふたりのノーベル賞受賞学者からメッセージをお寄せいただく予定です。

 また、PCSK9の分子疫学や脂肪肝の遺伝的感受性の解明に功績のある同Jonathan Cohen博士とリポタンパクリパーゼの機能やリポタンパク代謝の解明に功績のあるNew York University Grossman School of MedicineのIra Goldberg博士に招待講演をご依頼しております。その他、19個のシンポジウムを企画し、一般演題登録者からも積極的にシンポジストに採択する工夫をしました。これによって、若手研究者と第一線の研究者との遭遇による相乗効果を期待します。

 栃木県は下野薬師寺跡やフランシスコ・ザビエルに「日本国中最も大にして最も有名な坂東のアカデミー」と言わしめた足利学校などの文化史跡を擁し、江戸時代には徳川幕府の鬼門の護りとして日光東照宮に徳川家康が祀られ、約260年間の安寧の世を守護し、明治時代以降は皇室の御用邸を擁するなど、中央と地方の境界であり続けた土地です。そのため、名所旧跡も多く、東京からアクセスの良い日光・那須塩原国立公園は良質な温泉にも恵まれ、保養地としての古い伝統があります。いちごが県の特産品で、宇都宮は餃子やカクテル・ジャズの街として知られています。大谷石採石場跡やクライミングで有名な古賀志山も近く、プロサイクルロードレースチームの宇都宮ブリッツェンとプロバスケットボールチームの宇都宮ブレックスの本拠地でもあります。

 当学会に参加される皆様には、知的刺激に満ちた体験の後には、心も体も癒していただきたいと願い、事務局一同鋭意準備中です。皆様のご参加を心よりお待ちしております。

2023年1月吉日

第55回日本動脈硬化学会総会・学術集会
会長 石橋 俊
(自治医科大学内科学講座 内分泌代謝学部門
/いしばし糖尿病内分泌内科クリニック)